テレビ報道に見る産業・経済月報
(令和3年1月)
「2度目の緊急事態宣言・経済への影響は?」
今月の特徴は1.2度目の緊急事態宣言・経済への影響、2.日銀の動向、3.春闘の動向、4.ワクチンの動向、5.エネルギーの動向となった。
1.2度目の緊急事態宣言・経済への影響
緊急事態宣言が再び出された場合について大和証券グループ・中田誠司社長は「一定程度、個人消費などがマイナスになることは避けられない」とした上で、中長期的な企業業績の回復に期待を示し「年央ぐらいからワクチン効果などもあって、新型コロナウイルスが収束に向かった場合、来年度の企業業績が今年度に比べて4割以上の経常増益に向かうだろう」と述べた。SMBC日興証券・近藤雄一郎社長は「仮に宣言が1か月程度出された場合、年間GDP(国内総生産)を3.8兆円(0.7%)押し下げると試算」とした上で「ワクチンの普及と共に株式市場、企業業績は回復に向かっていく」と予測した。野村ホールディングス・奥田健太郎社長は「市場は米国経済や米中関係の動き、新興国とヨーロッパの経済がどう立ち上がってくるかにも注目している」と述べた。今回の緊急事態宣言は前回のように幅広い業種に休業要請を行うのではなく、飲食を伴う業種に対する営業時間短縮の要請が中心となった。政府は、テレワークなどを通じて会社に出勤する人を7割削減することを企業に要請した。外出自粛の動きが強まれば、飲食に限らず多くの業種で売り上げが減少することが懸念される。前回と比較した場合、大きな違いは、コロナ禍が続く中で経済状況がすでに大幅に悪化していることがある。業種別ではGoTo事業に支えられていた宿泊や外食の落ち込みが目立つ。去年1年間に1000万円以上の負債を抱えて倒産した飲食店の数は780件と過去最多を更新した(帝国データバンク)。そして、ことしの百貨店の初売りの売り上げは、大丸と松坂屋を展開するJフロントリテイリングと高島屋で、去年よりおよそ50%減少するなどコロナ禍の経済の動きを象徴するものとなった(NHK)。
2.日銀の動向
日銀は21日金融政策決定会合を開き、大規模な金融緩和策を維持し、企業への資金繰り支援策の継続を決めた。展望レポートでは今年度の実質GDPの成長率の見通しを去年10月時点のマイナス5.5%からマイナス5.6%に下方修正した。黒田総裁は会見でデフレに陥るリスクについて「現時点では非常に高まっているとは見ていない」との見解を示した(フジ)。日銀は2010年12月からETFの買い入れを始め、現在は年間12兆円を上限として購入している。黒田総裁は日銀が保有するETFの含み益と含み損の境目は、日経平均2万1000円前後で、現在の含み益は12兆~13兆円に上ることを明らかにした。ただ大規模なETFの買い入れは株式市場を歪めたとの批判が多いほか、もし株価が下落し、評価損が出れば国民に負担が及ぶ恐れも指摘されている。今後の方針について黒田総裁は「現時点では全体の枠組みを、そしてその中におけるETFの買い入れをやめる考えはない」と述べた(テレ東)。
3.春闘の動向
ことしの春闘で経団連と連合のトップ会談は病気療養中の経団連・中西会長が入院先からオンラインで参加して行われた。経団連・中西会長は「日本の賃金水準がいつのまにかOECDの中で相当下位になり、危機感を持っている」と語った。一方、連合・神津会長は「デフレ脱却、経済好循環の実現に向けた取り組みは緒に就いたばかりというのが実情」とコメントした。会談では賃上げの必要性については一致したが、新型コロナで経済が打撃を受ける中、賃上げの方法については隔たりを見せた。連合が定期昇給分を確保したうえでベースアップに相当する分として2%程度の賃金引き上げを要求しているのに対して経団連は業績が悪化している企業のベースアップは困難だとし、一律の賃上げには慎重な姿勢をみせている(NHK)。
4.ワクチンの動向
英国の製薬大手・アストラゼネカは、兵庫県芦屋市に本社のある日本国内の医薬品メーカー・JCRファーマと、新型コロナウイルスのワクチン9000万回分以上のワクチン原液の生産を目指していることが分かった。アストラゼネカは日本政府との間で先月、1億2000万回分の新型コロナウイルスのワクチンを供給することで合意した。関係者によると、このうちの75%に当たる9000万回分以上について、JCRファーマで近く生産を始める方針だという。アストラゼネカのワクチンは英国のオックスフォード大学と共同で開発したもので、米国のファイザーやモデルナのワクチンと比べ、温度管理の点で保管しやすいのが特徴。日本では去年8月に安全性や有効性を確認するため臨床試験を始めている(TBS)。ワクチンを巡っては世界的な需要の高まりにより供給に遅れが出ていて、政府は日本国内で生産体制を整えることにより安定供給につなげたい考え(テレ朝)。
5.エネルギーの動向
日本は2050年の脱炭素社会の実現に向けてグリーン成長戦略をまとめ、ことし官民あげた取り組みを本格化させる方針。計画では2050年の発電量に占める再生可能エネルギーの割合を50%から60%に引き上げることが参考値として盛り込まれた。ことしはその手前の2030年の段階で再生可能エネルギーをどこまで引き上げるかが議論される。計画のうち洋上風力発電については2040年までに4500万キロワットに引き上げる目標だが、現在国内には風車の製造拠点はなく関連産業の育成が課題となっている。原子力も脱炭素の選択肢として位置づけられたが、安全性への懸念は根強く残っている(NHK)。
●今後の展望
「日本企業トップが2021年を予想」
今年の予測を各企業のトップに聞いた。サントリーHD・新浪剛史社長は「今年の大きなリスクは地政学リスク。米中の狭間に入った日本。この難しい立場をどうやって乗り切っていくかが課題といえる」、ANA HD・片野坂真哉社長は「バイデンになっても米国の対中姿勢はかなり強硬さが続くという予測もある。大きなリスクの1つは米中の激化だろう」と述べた。ローソン・竹増貞信社長は「脱炭素。これをリスクと捉えるかチャンスと捉えるかは分かれると思うが、私はチャンスだと思う」と述べた。大和証券グループ・中田誠司社長は「コロナの感染拡大が予想以上に長引いて、経済の低迷が長期化するかもしれない。経済回復が急ピッチで進み、思わぬ金利上昇を招くのもリスクかもしれない」と述べ、伊藤忠商事・岡藤正広会長は「バブルがはじけるとリーマンショックよりひどい状況になる可能性もある」とやや悲観的な見方を示した。岡三証券・高田創エグゼクティブエコノミストは「非常にリスクの時期、転換の時期は逆に大きなチャンスの時期でもあり、コロナをチャンスに変えるのも重要な視点といえる」と述べた(テレ東)。
●注目点
「コロナ禍の決算発表・その中身は?」
東京証券取引所1部に上場する企業の12月までの9か月間の決算発表が29日、ピークを迎えた。SMBC日興証券が、発表を終えた160社の決算を分析したところ、最終的な利益が増益となった企業は49%に上った。減益は全体の37%、最終赤字を計上した企業は13%だった。各社の利益を足し合わせると、前の年の同じ時期に比べて21%の減少となり、感染拡大の影響を受けた陸運業やサービス業などの落ち込みが目立っている。また1年間の最終的な利益の予想を公表した147社のうち、増益を予想する企業が46%あったが、減益の予想が43%、最終赤字を見込む企業が9%で、半数以上が赤字か減益を予想している。一方で、39社が最終的な利益の予想を今回の決算で上方修正するなど、当初の想定よりも年間の業績が上向くと予想する企業も増えている。航空大手のANAホールディングスは、利用者の大幅な落ち込みが続き、グループ全体の最終的な損益は過去最大の3095億円の赤字になった。JR東日本の最終的な損益も、この時期としては過去最大の2945億円の赤字になった。鉄道利用者の大幅な減少に加え、駅ビルの商業施設の売り上げも落ち込んだことが大きかった。2度目の緊急事態宣言などによる、宿泊業の苦境を調査する業界団体のアンケートで、加盟する全国の旅館のうち55%が、「休館している」か「その予定」であることが分かった。日本旅館協会は「対策を講じないと産業がもたないところまできている」と話している。(NHK)。
●1月のランキング(企業別テレビ報道CM価値換算一覧全国版より)
「第1位・ローソン、第2位・オリエンタルランド、第3位・伊藤忠商事」
2021年1月のテレビ報道CM価値換算ランキングでは、「ローソン」が38億800万円で第1位に輝いた。具体的には、新製品や「宅配代行サービス」等の紹介に加えて、「この春から契約期間を5年に短縮できるようにする」等の施策の発表が寄与したものと考えられる。第2位は「東京ディズニー・午後7時閉園に」などの報道で「オリエンタルランド」となった。第3位は「伊藤忠商事・世界中の人々の幸福を願う・プロジェクションマッピング」などの報道で「伊藤忠商事」、第4位は「セブンイレブン代表格・今こそ熱い!冬アイスの世界!」などの報道で「セブン&アイ・ホールディングス」、第5位は「仕切りで安心!ガストの1人席・くら寿司の秘策は完全非接触」などの報道で「すかいらーくホールディングス」、第6位は「コロナ禍で苦境のホテル・鉄道ファンを狙い活路」などの報道で「東急」、第7位は「バレンタイン商戦最速レビュー・三越伊勢丹×おうちチョコ」などの報道で「三越伊勢丹ホールディングス」、第8位は「JALの未来」などの報道で「日本航空」となった。第9位は「KDDI・新料金プラン発表」などの報道で「KDDI」、第10位は「餃子の王将を調査」などの報道で「王将フードサービス」となった。
●1月の人物ランキング
「第1位・楽天・三木谷浩史会長兼社長、第2位・経団連・中西宏明会長、第3位・KDDI・高橋誠代表取締役社長」
第1位・楽天・三木谷浩史会長兼社長33件(楽天・20ギガ1980円・大手3社に対抗など)、第2位・経団連・中西宏明会長29件(経団連と連合・トップ会談など)、第3位・KDDI・高橋誠代表取締役社長28件(KDDI新プラン・月2480円“最安値”カラクリなど)、第4位・アキダイ・秋葉弘道社長22件(名物社長に聞く“ネギの代役”財布に優しい旬の野菜はコレなど)、第5位・日本銀行・黒田東彦総裁20件(日銀ETF買い入れ・含み益は12兆~13兆円になど)、第6位・オイシックスラ大地・高島宏平社長13件(スゴイ社長の新年会延長戦など)、第7位・星野リゾート・星野佳路代表10件(2021年スゴイ社長の日経平均株価大予想など)、第8位・ニトリホールディングス・似鳥昭雄会長兼CEO9件(スゴイ社長が気になる会社など)、第9位・サンリオエンターテイメント・小巻亜矢社長9件(スゴイ社長の2020年私はここを変えました!など)、第10位・トヨタ自動車・豊田章男社長9件(年内にも・トヨタなど設立の新会社・自動運転車披露の意向など)。
●テレビの窓
「オフィス変化・テレワーク化進まぬ中・新しい働き方」
コロナ禍においてテレワーク化がなかなか進まない中、新しい働き方をサポートする取り組みが広がっている。政府は出勤7割削減を呼びかけているが、11月の調査ではテレワークの実施率は、最も高い東京都でも半分以下(そのほか千葉、神奈川、大阪、埼玉、愛知。パーソル総合研究所調べ)。宣言の対象地域でも20%台にとどまっている。現在11都府県に2000台以上設置されているボックス型テレワークスペースは、防音になっていて周囲を気にせずオンライン会議を行うことができる。これまでは都心のオフィスビルなどを中心に設置されてきたが、先月にはコンビニ内に登場した。セブンイレブン飯田橋升本ビル店(東京・新宿区)、青梅市役所(東京)、イトーヨーカドー藤沢店(神奈川・藤沢市)、スターバックスコーヒー高輪ゲートウェイ駅店など、市役所やショッピングモールなど郊外の住宅地近くにも続々と進出している。スターバックスでは去年、ビジネス利用に特化させた店舗を日本に初オープンした。ここでも個室ブースが設置されている。ブイキューブ・間下直晃社長は「この中は完全に0密の状態ですから、安心して作業もできる。どこにいてもアクセスできるような環境を作るために広げていこうと、積極的な展開をしていきたい」と話している(TBS)。
JCC株式会社